北海道という風土に合う靴作りを デザイナー兼作り手 Wataru.Nさん
札幌を中心に北海道で活動するクリエイターを、多彩な工作機械だけでなく情報発信からも応援したいとスタートした「 SHAREGARAGE ~ SAPPORO ものづくりコミュニティ~」。今回インタビューのマイクを向けたのは、札幌で革靴をセミオーダーで製作するシューズブランドを手がけるWataru.Nさん。北海道、札幌に暮らしながら、その風土に合う靴を探求し製作するWataru.Nさんのものづくりに目覚めたきっかけから現在の活動や今後の目標についてお聞きしました。また、今回は札幌で唯一の『靴磨き職人』岡本英弥さんと一緒に、SHAREGARAGEとコラボレーションした『靴磨きワークショップ』を開催していただくことになりました!
ハンドメイドレザーシューズ Wataru.N デザイナー兼作り手
伝統的な手製靴特有のクラシカルで堅牢な作りを基本に、デザインから制作まで一貫して行うシューズブランド。
日常使いのベーシックな靴から、特別な日の一足までハンドメイドにより長く愛着の持てる靴を提案している。
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@Handmade leather shoes water.N
インスタグラム
@shoemaker.wataru.N
「手に職をつけたい」から靴の世界へー
ーWataru.Nさんがものづくりに目覚めたきっかけはなんですか?
「昔の僕は何かを作りたいとかそういうきっかけってあんまりなかったんですよね。靴作りをしようと思ったのも特別なきっかけがあったわけじゃなくて、高校生の時に『手に職をつけたいな』と思い込むようになったんです。『自分はこれから何をして食べていくんだろう。』って考えた時に、資格とか技能とかそういうものが必要なんじゃないかって。そこから色々調べていって“靴”っていうものに興味を持つようになったんです。」
ー昔からずっと靴に興味があったわけではないんですね。
「そうですね。でも思い返せば“靴”に対して何か執着のようなものがあったかもしれません。5歳の頃かな。その時もらったお年玉でひも靴を買ったんです。この頃の子供って蝶々結びとかできないじゃないですか。でも子供心に『マジックテープの靴はイヤだな」っていうのがあったんです。その頃から何かあるときは“靴”を履きたいと思うようになりました。興味ってほどではないですけど、ファッションの一部として好きでしたね。」
ー高校卒業後は専門学校に進学されたんですか?
「エスペランサ靴学院という靴専門の学校に行きました。そこで基本的な製靴技術などを勉強して、卒業後は秋田県のメーカーに就職しました。そこでは底付け部という部署に配属され、ヒールを加工する、靴底を加工するなどの技術を習得しました。この時身につけた技術のおかげで“靴修理”を仕事としてお受けできています。当時からいずれ独り立ちしたいということは考えていて、社長にもその旨をお伝えしていたんです。僕がこの世界でやっていくために必要なことを教えてくれたのが、今の活動に繋がっています。」
数をこなして挑んだ初めての個展ー
ークリエイターとして活動を始めたきっかけはなんですか?
「2011年に初めて個展を開いたんです。それからが始まりだと言っていいと思います。靴学校を出て、メーカーを出て、札幌に帰ってきたんですけど、また東京に行こうかなと考えていたのでお金を貯めていたんです。でも『東京にいく資金を全部使って展示会を開いてみたら』って先輩から言われて、『あ、じゃあそうします』ってことで1年かけて30足作って個展を開いたんですよね。結果から言うと全然ダメでした。でも“数をこなす”っていうのが第一目標だったのでいい経験にはなりましたね。そこから年に1回は個展を開催するようになったという感じです。」
ー最初の個展の結果が思わしくなかったというのがすごく意外でした。
「一足も売れてないですからね。でも、商業的なことを意識してやってみたわけではなくて、どちらかというと『見せたい』とか『作ってやる』とかそういうイメージだったんです。ものづくりにおいて作ることってすごく大変じゃないですか。じゃあどうしたらそうじゃなくなるかって考えたんですけど、答えが二つ出たんです。『楽をする』と『数をこなして、苦でなくする』。だから僕は、数をこなして沢山作りました。そして気持ちが楽になり楽しくもなったんです。」
ー現在はどのような活動をしていますか?
「今はありがたいことにトランクショーとか百貨店での受注会が多くなってきてます。そこで受けたオーダーを次の受注会までに製作するっていうサイクルですね。あとは不定期で開催する個展もあったりします。」
『作りたい』という欲望ー
ーどうやって作品を生み出しているんですか?
「『お客様のご要望』と自分自身の『作りたいっていう欲望』『こんな靴が履きたい』っていう3つの想いが混ざり合って靴として生み出ていると思います。展示会では『この組み合わせがいい』とか『ここがこういう風になってた方がいい』といったお客様の意見を参考にすることもあります。でも製作する上で『作りたい』っていう欲望が一番大きいと思います。なので、メンズの製作では作り手の欲望が出ることが多いんです。あとは“こだわりすぎない”っていうところを意識して製作しています。これはすごく難しいところではあるんですが、こだわりをそぎ落せば“洗練”されるわけでもなく、“遊び”もどこかで入れた方がいいこともあるので、一つ一つのさじ加減が大事なんです。」
『何がダメで何がいいのか』を一つ一つ判断するー
ー産みの苦しみはありますか?
「ありますね。そういう時はデザイン画を描いてみたり、逆に全く考えるのをやめたり、、、あとは割と自然体でいるように意識しますね。それで例えば、ふとした時にがっつり集中できるようにそれだけの時間を作ったりします。あとは、レパートリーとかってあるじゃないですか。技術のレパートリーっていうんですかね、ギミックみたいな。そういうのを組み合わせたりすることでアイデアを出したりします。苦しみがある時はそこまで考えてないで、『何がいけないのか、何がいいのか』っていうのをひとつひとつ判断してるって感じですね。」
牛から革、そして靴へー
ー靴づくりの魅力はなんですか?
「何が面白くて続けてるかっていうと、やっぱり牛という立体の動物がいて、それが皮にされて平面になるんですよ。そして今度は平面から(※1)アッパーを製作すると半立体状になるんです。そこから(※2)つり込みっていう作業を行って立体的に戻るんですよね。立体物、平面、半立体、立体っていう風になっていく過程がすごく楽しくて続けてるところがあります。たぶんこれが原点なんじゃないかな。靴を作る原点っていうか。」
※1…足の甲を覆う靴の素材
※2…アッパーを足裏にまとめる作業
周りの反応が変わってきた7年目ー
ー活動を始めてから今年は何年目ですか?
「2011年からなので7年目ですね。始めた頃に比べると周りの反応もすごく変わってきました。展示会の回数が増えてきたことで知り合う人も増えましたし、取材も受けさせていただいたことで記事を見て知ってくれた人、誰かがSNSでアップしてた僕の靴を見て知ってくれたり。あと、『僕の作った靴を履いている人を見た』ってSNSに投稿していた人もいるんですけど、僕自身はまだ見たことはないんです(笑)。でもいつか自分にもそういう日が来るといいなと思うし、何より励みになります。」
ー認知度を上げるために取り込んでいることはありますか?
「今はSNSですよね。Facebook、Instagramは定期的に更新して情報発信しています。あとは草の根運動というか、最近になってようやく『長井さんの靴を履いてよかった』っていう人が他の人に広めてくれたりすることも増えてきました。やっぱり口コミの影響は大きいですよね。とてもありがたいです。」
ー北海道札幌以外で活動していこうと考えていますか?
「今のところないですね。ただ東北圏にも関心があります。要は関東関西圏って靴屋さんが結構あるんですけど、東北から上はやっぱり気候や風土のこともあって少ないんですよね。僕は北海道や東北の風土にすごく興味があるし、そういう環境で製作を続けて行こうと思っています。」
北海道、札幌の風土に合う靴を作りたいー
ー今後の目標を教えてください。
「北海道という風土に合う靴を作りたいと思ってます。僕は札幌、北海道っていう土地がすごく好きなので、冬靴と言われるものをもっとカッコよくしたいんですよ。ソールのデザインや形なんかをもっと改善してみたり。なので北海道の冬に合う仕様のアッパーやソールを作っていきたいし、札幌に関しては街並みと自然が融合している場所なので、そういった文化や風土に合ったものを作っていきたいですね。」
ものづくりをする人へ。孤独を飼いならせー
ー今ものづくりをしてる人に向けてアドバイスをお願いします。
「僕が伝えたいのは『辛い時に楽をするのではなく、これができたら楽しいと思う方に入り込め』ということです。ものづくりってすごく孤独になるんですよ。僕もまだまだですが。孤独過ぎて必ず病むんです。その時に他にも辛いことが重なってくると、楽な方に逃げようとする人が多いと思うんです。でも「楽(らく)」と「楽(たの)しい」って漢字同じじゃないですか。そこがミソだなって思ってて、楽(らく)をしちゃうと作ったものが良いものにならないんですよね。考えが及ばなかったものってなるんです。でも、辛い時にこそ『これができたら驚くでしょ』とか『これができたら喜んでもらえるかな』とか、それが楽しいって思える方に自分が進めるようにしたらいいと思うんですよね。そこだと思います。孤独を飼いならすっていうのが大事だと思います。」
ここからはWataru.Nさんと岡本さん、お二人のお話を聞いていきたいと思います。
ーお二人が出会ったきっかけはなんですか?
岡本さんー「僕がSHAREの会員さんの靴を磨かせていただいたことがあって、その人に『長井さんっていう靴職人さんがこの近くで展示会やってるから観に行ってくれば?』って教えてくれて、その足ですぐ展示会に会いに行ったんです。」
Wataru.Nさんー「元々岡本くんのお客さんの会員さんと僕が知り合いだったんです。なのでそこから繋がった感じです。」
『インスピレーションサーカス(INSPIRATION CIRCUS)』
~この街のクリエイターが魅せる、”閃き”と”感性”の共演~
作家、アーティスト、デザイナー。肩書きの違いはあれども、その道の追求の為に膨大な時間を費やし『生み出す』事に夢中になった個性派の作り手による展示会。
ーお二人は普段どんな感じでお話ししているんですか?やっぱり革靴を肴にお酒を飲みながら語り合ったり?」
Wataru.Nさんー「僕は全くお酒が飲めないんですよ(笑)。」
岡本さんー「僕はめっちゃ好きです。」
Wataru.Nさんー「だから革靴だけで結構話せるよね。」
ー今回開催するイベントの魅力を教えてください。
岡本さんー「靴磨きの種類で『鏡面仕上げ』っていうものがあるんですけど、これって感覚値の世界なんですよね。今だとYouTubeとかの動画サイトで方法を紹介していたりするんですけど、そういった動画では伝えきれない“テクニック”や“気をつけた方がいいポイント”なんかを解説することができるのでオススメですね。」
Wataru.Nさんー「僕は普段目にすることのない『靴底の修理』っていう、一歩踏み込んだ靴手入れの方法をお伝えします。あと、足の計測も当日行います。足って同じように見えて実はサイズが違うんですよ。靴を選ぶときに自分にあった靴を選ぶきっかけになると思います。」
※参加手続きはこちらからも行えます→ https://peatix.com/event/395122/
creators file 第13号のWataru.Nさん、ありがとうございました!
SHAREGARAGEは作家さんの活動をサポートしていきたいと考えています。ワークショップを開催したいけど場所がない、自分で広報活動をする余裕がない、などの問題を一緒に解決していくことができます。また、レーザーカッターやUVプリンターといった多彩な工作機械とコラボレーションしたワークショップを企画開催することもできますので、ぜひご相談ください!

工作機械の技術をひととおり学べるスクール「ファブスクール」が2023年4月から開講します。人気のレーザーカッターやUVプリンター、3Dプリンターやカッティングマシンも。卒業後は工作機械アドバイザーとして活躍することもできる習い事ができました。
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